「やっぱり・・・
 あなたが最後の黒幕だったってワケね」


椅子に座らされ、手を後ろにまわした体勢で
女性は背後の男性にそうつぶやいた


「ああ、そういうわけさ・・あとは君が推理した通りだよ
 でもしかし驚いたな、まさか警察でもない君に僕の正体を見破られるなんてね
 
 “これからは、身近な小説家さんにも気をつけろ”

 いい教訓になったよ」


そう言いながら、男性は椅子に座る小説家女性の身体にダクトテープを巻きつけていく・・・


「それにしても、いきなり銃片手に私の家に忍び込むなんて
 計画的犯行がお得意のあなたにしてはなかなかの強攻策じゃない・・・」


「流石に今回は、君のずば抜けた推理力に追い付くにはこの方法しかなかったよ

 ここまで追い詰められたのは初めてだ・・・
 おそらく僕がここまでの状況になるのは、これが最初で・・最後になるだろうね」


一通り女性を拘束し終えると、男性は机に置いていた銃を片手に取り
そしてもう片手でポケットからハンカチを取り出す


「さあ仕上げだ・・口を開けて」


男性の要求に女性は抵抗の余地も無く、静かに口を開ける・・・
女性の口には丸めたハンカチが詰め込まれ、その上に厳重にテープが貼られていく



   

「これでよしっと・・・
 まさか、普段小説の執筆で頭の中でしか思い浮かべない展開を自身で経験するとは君も思わなかったろ?」


男性の笑顔に軽く睨みを利かせる女性


「本来ならば、ここで引き金を引いてすぐさま終焉・・と行きたい所だが・・・
 女性の血や死に顔を見るのは僕の主義じゃないからねえ

 それに、君もこの世とおさらばする前にいろいろと考える時間も必要だろ?
 そこでだ、今回はこの方法を取ったって訳さ・・・」


部屋内には窓やドアなどの隙間がダクトテープによって塞がれており
あるドアの隙間からは、1本のホースが部屋内に伸ばされている




 しゅーー・・・




「言うまでもないが、このホースの先は君の家のキッチンコンロへと伸びている
 これが君が嗅ぐ最後の香りって訳さ・・・

 ガスが充満するまでにはざっと一時間ぐらいかな?
 それまでに来世の事なんかを考えるにはもって来いの時間だよ

 それじゃあ、僕はこのまま空港に向かうとするよ
 いろいろ巻き込んですまなかったね、今回の事件であの世に行っている人々によろしく伝えといてくれ」



   


男性はそう言うと部屋中の電灯を消し
唯一テープの貼られていない小窓を開け、部屋へと出る
男性が出た後、小窓は閉められ外側からテープが貼られていく音が壁越しに聞こえる・・・

その後、車のエンジン音が鳴り響き
暗闇の中、その音が徐々に離れていくのを女性は密封された部屋内で一人耳にしていた・・・



      




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